「雨もり」──多くの人が「屋根」を意識するのはこのときです。屋根のプ口である屋根工事店が登場します。クモの糸一本からの雨もりを発見する「雨もり博士」におまかせ下さい。でも雨もりのすべてが屋根に原因するものとは限りません。「結露」なんかがそれです。屋根工事店の手には負えない場合があります。
ここでは屋根工事店が経験した「雨もり」にまつわるおもな事例を見ていきましょう。
雨もりの“謎”が解き明かされます。
事例1. 屋根裏の配線を伝って
台風のあと、2階の勉強部屋の天井にシミが出たということで、A邸を調査しました。勉強部屋以外の天井には異常が見られません。Aさんは勉強部屋の上の厚形スレート屋根に問題があると主張します。
しかし屋根を調べてみますと、勉強部屋とは対角線上に位置する洗面所部分の屋根に問題があったのです。そこの厚形スレートと下葺材が破損していました。雨水がそこから漏れ、屋根裏のアンテナ引き込み線を伝い、勉強部屋の天井裏に水滴を垂らしていたのです。
事例2. ベランダの排水溝が原因
2階建ての化粧スレート屋根の住宅に住んでいるBさん。「1階廊下の屋根から雨もりしてしる」。最近、屋根のある1階廊下の天井部と、その天井に面した壁に雨水のシミが発生したと言います。
早速調べてみると、1階廊下部の屋根上にはベランダがあり、この構造に欠陥がありました。ベランダへ降った雨水や洗濯物から出た水が、部屋側とは逆にある排水溝へ流れず、排水溝のない部屋側にたまり、その水が老朽化したモルタル壁にしみ込んでいたのです。
事例3. 強風時の飛散物、怖い
築半年という新しい住宅にもかかわらす、猛烈な台風の後、天井と壁にシミが発生したとの連絡で調査しました。
屋根材は金属製で施工はしっかりとしたものです。しかし強風による飛散物が2階のモルタル壁にぶつかってひびが入り、そこに風とともに雨が吹き込んで、1 階の壁、天井へと雨水がしみ込んでいったことが分かりました。
このほかにも強風による飛散物が屋根材を割り、同様に雨もりを引き起こした例もあります。
事例4. 下葺材の老朽化でも
築30年の木造平屋建てに住むCさんから、屋根に外見上は異常が見られないのに、雨のあと天井にシミが発生するとの相談。
屋根は粘土瓦葺きです。瓦は瓦桟木に固定されていましたが、その桟木が長い年月の間に腐っていました。また桟木を留めつけている釘も赤く錆びています。さらに下葺材も老朽化し、裂けて屋根の下地(野地板)が露出していました。瓦の裏へ回った雨水が、下地から天井裏へ入ったことが原因でした。
屋根の豆知識
結露
けつろ。冬の朝、窓ガラスの内側に水滴がびっしりとついているのが結露。
建築材料の温度がそれに触れている空気の露点温度以下となった場合、空気中に含まれる水分の一部がその材料表面に凝縮して起きる。表面結露だけでなく、壁や材料内部で生ずる内部結露もある。
釘
緊結材料の一種。材質は鉄、ステンレス、鋼など、頭の形状で平釘、丸釘、傘釘など胴部形状でストレート釘、スクリュー釘など。太さや長さまでいれると実に多種多様。緊結材料ではほかにネジやクリップ、鋼線、ステンレス線、棟の特殊金具まである。
事例5. 実はネズミのオシッコだった
天井にシミを発見すると、一般の人はすぐに「あッ、雨もりだ」と思うようです。でも心天井のシミもさまざまな原因によって発生します。
ユ二ークなケースでは屋根裏にあったハチの巣から流れ出した蜜が原因だったこともありました。さらに汚い話ですが、ネズミのオシッコやネズミの死骸から出る体液などが天井にシミを作っていた、なんていうことも実際に屋根工事店が経験しています。
事例6. 下地の状態にも要注意
葺き替えを別の屋根工事店にやってもらったJさん。雨もりが止まらない、と相談に来ました。このようなケースは実際にあることですが、原因はさまざまです。
J邸の場合は前に下葺材を留めていた金属製のタッ力一釘が中途半端に抜けたまま除去されていなかったため、新たに張り替えた下葺材を傷つけ、雨もりを起こさせてしまったケースです。業者の不注意としか言いようがありませんが、ていねいな仕事をする工事店では見逃しようがないことです。
事例7. 屋根に「堤防」はいりません
粘土瓦の屋根には瓦同士の徴妙なすき間があります。すき間があまり小さいと毛細管現象で水を引き込む危険がありますし、逆に大きいと隙間からの風の吹き込みで雨水が吹き込むおそれがあります。
粘土瓦の最適すき間寸法は3mmという研究結果があります(宮野秋彦名古屋工業大学名誉教授)。いたずらにこのすき間をふさいで“堤防”を作ってしまっては、かえって危険です。瓦のすき間をしっくいや接着材などでふさぐ工事には注意が必要でしょう。
事例8. 毛細管現象を知ろう
屋根には軒先の樋のほかにも、雨を屋根から流す役目を担う箇所があります。谷になっているところや、外壁と屋根の接合部などです。たいていは金属製のもので板金工事が行われています。そこに土や枯れ葉などがたまると、それらが毛細管現象で雨水を引き込んだり、事例7で触れた“堤防”となってしまい、本来の排水機能が果たせなくなります。せきとめられた雨水は屋根材の裏に回り、さらに下葺材の重ね目から浸入します。なお毛細管現象による雨水の引き込みは、屋根 の平部でも起こります。瓦についたコケや枯れ葉、土ぼこり、雀の運んできたワラー本でも、雨もりの危険性はあるのです。
屋根の豆知識
天井のシミ
雨もりと思われる端的な現象だが、それが屋根裏の結露であったり、上記にあるような例であったり、事は単純ではない。「雨もり」の定義について、名工大の宮野秋彦名誉教授は「建物自体または室内に漏水による何等かの被害を生じること」としている。
板金工事
亜鉛鉄板や銅など金属の薄板を加工し、取り付ける工事のこと。
ニつの屋根面が交わるところにできる谷の谷板(銅板など)施工、上記のような壁際部(水平・登り)の雨押さえ(水切り鉄板)施工が該当する。現場や部位によっては板金職が担当する場合がある。
事例9. トタン屋根のサビに注意
いわゆるトタン屋根から雨もりするとのことで、Kさんの自宅の屋根を調査しました。
築30年ほどの古い家で、トタン屋根の表面はところどころ錆びており、中には手でふれるれるとボロッと穴があいてしまう箇所もありました。
トタンは亜鉛メッキされた鋼板です。メッキ層が経年変化ではがれてしまえば、基板は鉄ですので錆びやすくなってしまいます。金青は雨もりに直結する注意信号です。
事例10. 怖い、素人の屋根塗装
厚形スレートの屋根か色あせしたので、Lさんは自分でペンキを塗ったそうです。そうしたらこれまで漏らなかった雨が漏り始めたと言います。
見に行きましたら、素人仕事だけにあちこちにペンキの塗りムラがありました。雨もり箇所と見当をつけたところではベンキが固まり、瓦と瓦の重ね目に小さな“堤防”を作っていました。この ペンキの“堤防”が原因だったのです。
事例11. 「安かろう、悪かろう」ダメ
「屋根の修理、見本工事でやるから安くしとくよ」とM邸へ自称、瓦工事業者。ちょうど雨もりしていたので屋根の修理を頼んだそうです。
その工事業者はすき間に接着材を詰めるだけの工事をしました。しばらくして太陽熱温水器も取り付けたMさん、「また雨もりする」との電話。屋根に上がった電気屋さんのせいで、瓦のすき間の接着材がボロボロに欠けており、瓦にくっついたそれが雨水を引き込む働きをしてしまったのです。接着材は固まると欠けやすくなる場合があるので、不用心に屋根へ上がると大変です。また安易な接着材工事は危険です(事例7参照)。
屋根の豆知識
亜鉛メッキ
鉄は腐食して鋼びるため、その防止技術として表面に亜鉛の皮膜をつくること。
薄鉄板を屋根材として使う必須条件だった。亜鉛鉄板、別名トタン。アルミと亜鉛の特質を兼備した高耐候のガルバリウム鋼板、フッ素樹脂塗装など、金属屋根材の高級化はめざまい。
事例12. 雪固まって雨漏らす
久しぶりに大雪が降った冬のことです。雪が止んでしばらくして、施主のNさんが軒先から雨もりすると訴えてきました。外は快晴なのになぜかと聞いてきます。
屋根に雪が積もると、昼間一部が解けて軒先にたまります。この軒先の水分が凍ると氷堤(氷の堤防)ができます。これが繰り返されると、軒先から内壁などへ溜水(たまりみず)がしみ込んでくる場合があります。これを「すがもれ」とか、「すがもり」と呼びます。
事例13. 外壁の継ぎ目から雨が侵入
台風の後、壁にシミができたとのことでOさん宅へ行きました。聞くと外壁材を最近、窯業系サイディングに張り替えたそうです。現場で外壁を見ましたが、外壁材の継ぎ目がしっかりと工事されていません。そこから雨が浸入していたことが分かりました。
事例14. 雨もりではない、樋の詰まり
壁にシミがあるとのこと。屋根に上がってみると雨樋の中にしっくいがたまっています。
P邸では以前、店の名前も住所・電話もいい加減な業者にすいぶん高い料金を払って屋根修理をさせたことがありました。そのときのいい加減な工事でしっくいがあちこちに散らばっていました。樋からあふれた雨水が壁に伝わり、雨もりと間違われたのです。
屋根の豆知識
窯業系サイディング
エ場生産されたセメントベースの乾式外壁板。
古くは板材の下見(したみ)板や羽目板、左官工事のモルタル壁だったが、品質、施工性、コストなどで住宅の外壁構法として急速に普及している。JIS A5422。金属系サイディングや木質系サイディングもある。